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彼の病院へ
朝6時半
バスに乗り 新幹線に乗り換える
彼の居る病院へ・・・
久しぶりに逢った彼は
前より痩せていた
あれもこれも
話そうと思っていたのに
彼の話に
うなずくことしかできない・・・
何か言ったら
涙がでそうになるから・・・
「もう肺の器官がつぶれているって・・・」
「ねえ・・・
切れないって ほんとなの?」
「うん・・・
化学療法しかないって・・・
聞いたときは
やっぱりショックだったよ・・・
後 どれくらいもつのかな?」
彼の言葉が
私の胸に突き刺さる
それでも
そんなそぶりは
見せられない
なにか 言わなくちゃ・・・
このままでは・・・
やっと思いで 言葉を口にする
「お医者さんに
なにか 言われたの?」
「いや 医者はなにも
言わない・・・
僕もなにも
聞かないから・・・」
(そうよね・・・怖くて聞けないよね)
「2週間 化学療法が 続くから
この薬が 効かなければ
また 別の薬に変わる」
「癌の専門の病院に
変わることは
考えてないの?」
「今の状態では
どこの病院でも
やることは 同じだから・・・
薬で とめないと
全身に転移してしまう
でも 癌を殺すということは
よい細胞も殺すということだからね
副作用は しかたないよ
もし 治療中に
白血球が 下がったら
もうおしまいになる・・・
それに 抵抗力が
落ちるから
治療の間に風邪をひいても
肺が止まってしまう」
彼の言葉に
体が震えそうになった
(おしまいになるなんて
言わないで・・・)
心の中で叫んでいた
でも顔には出さない・・・
彼の命が繋がることだけを
考えなくちゃ
「食べたくなくなると思うけど
がんばって 食べてね
どうしても 食べられなかったら
これ 飲んで・・・
ゆず茶 もってきたから」
「うん ありがと」
「それから これ・・・」
「なに?」
「パワーストーン・・・水晶よ
気休めかもしれないけど」
「うん」
微笑んでくれた彼・・・
よかった・・・
「もう 治療開始の時間だ・・・
行かないと・・・」
「わかった・・・じゃあ 帰るね」
「遠いところ ありがと」
「うん 治療 がんばってね」
「うん」
私がタクシーに乗るまで
見送ってくれた彼・・・
これが 最後にならないでほしい・・・
そう思いながら
彼に手を振った
治療が始まる前の
ほんのひと時だけど
彼と話ができてよかった・・・
涙が 溢れてとまらない
帰りはどうやって
帰ってきたのか
わからなかった
(27 July)
Music by 遠来未来